GENERATIONS LOVE
【side 修二】


「はあ…はあ…はあ…」


何とか目標としてた時間には間に合った。
閉店後、シャッターの下りたドルチェに視線を向ける。
昨日と変わらない予約数…
平日ならまだしも、週末のドルチェの忙しさは半端ない。
4人で回してやっとこなのに、
3人では、キツかっただろう。


「あれ?修二先輩っ!?」


丁度表通りに出てきた谷山と茜ちゃんに
遭遇する。


「大変な思いさせて悪かった!」


申し訳ない気持ちを募らせていた俺は、勢いよくふたりに頭を下げる。


「え…!?修二さん頭上げて下さい‼」
「そうっすよ!色々ありましたけど、
何とか終わったっすから‼」


俺の唐突な行動に、驚いて慌てるふたり。


「…じゃ、何か俺に出来ることある?」


俺のその言葉に、ふたりが顔を合わせる。


「俺達、ずっと思ってて…
修二先輩の賄い食べてみたいっす‼」


「頑張ったご褒美ってことで!」


ふたりが出した要求は、
俺の考えの斜め上のものだった。


「…駄目…ですか?」


茜ちゃんの残念そうな顔に、
慌てて否定する。


「あ…いや、駄目じゃないよ。
勿論、オーナーの許可が下りたらってこ
とになるけど…それがご褒美になる?」


「なります!」
「なるっす‼」


口を揃えるふたりが、何だか可笑しくて…


「分かったよ」


笑いながらそう言うと、茜ちゃんは少し頬を朱に染め、それを見ていた谷山が口を尖らせる。


「修二先輩、無駄にイケメンオーラ振り撒
かないで下さいよっ!」


ただ笑っただけ…なんだけどな。


「ところで、色々あったって何が?」


先程の谷山の言葉が気になり、聞いてみる。


「あー…上手く連携取れなかったっすね」


頭を掻きながら谷山が答える。


「香坂さん、絶不調で、
ワイングラス割ったり、
オーダーミスしたり…
昨日の動きと違ってました」


「んー、あと開店準備中から、顔真っ赤で…
本当に体調悪かったんじゃないかって、
思うっす‼」


……俺が指導に付いている時に、
そういった様子は見られなかった。
ふたりの話を聞いても、想像出来ない。
だとしたら、本当に体調不良…?
真琴さんにも、負担を掛けてしまった事実が心を重くする。


「確かに…顔は赤かったですけど…
体調不良というより、
恋煩いじゃないですか?」


「「えっ…?」」


茜ちゃんの言葉に、
思わず谷山と同じ反応をしてしまう。


「あんなに綺麗で落ち着いた大人の女性に
普段の自分を出せないような…
一体何を言って動揺させたんですか? 」


茜ちゃんが真っ直ぐ俺を見上げる。


「…心当たり、ありますよね?」


木村や森田さんより、
詰めが鋭い茜ちゃん。


「……えーっと…はい」


「えーーーーーー!?マジっすかっ‼」


「今日香坂さんが絶不調だったのは、
修二さんのせい。
という事で、ご褒美期待してますね‼
それから、香坂さんオーナーと話してる
ので、もう少ししたら来ると思います。
私達はこれで、お先に失礼します。
行くよ、潤くん‼」


普段の茜ちゃんとは思えないくらい、
一気に捲し立て、
未だ放心状態の谷山の腕を引っ張り、その場を後にする。


放心状態は俺も一緒で、
ふたりの背中が見えなくなるまで見つめていた。


茜ちゃんが気付くくらい、
俺って分かり易いのか?
いや、それよりも……
俺が思っているよりも、
真琴さんは俺を意識してくれている?
それだったら、どんなに嬉しいだろう。


早く真琴さんに会いたい。
会いたくてたまらない。


コツコツとヒールの足音が聞こえる。
通路に視線を向ける。
俺の目に真琴さんの姿が映る。
真琴さんを視界に入れた瞬間、
胸が高鳴る。


「お疲れ様です、真琴さん」


俺の姿を映した目が、大きく見開かれる。


驚いた表情の真琴さん。
あれ?森田さんに伝言頼んだはずだけど。
そう心に疑問を抱くものの、
真琴さんにやっと会えたことが嬉しくて仕方ない。
今日1日の疲れが、それだけで吹き飛んでしまいそうだった。


「…どう…して…?」


「約束したでしょう?この時間のシフトの
時は、俺が送るって…
それより、今日は突然休んでしまって、
負担を掛けてしまって、すみませんでし
た」


先程同様頭を下げる。


「とんでもないです。頭を上げて下さい‼
自分が予期しないところで、事情が変わ
るのは、皆一緒です」


俺を批難せず、
大人の考えで諭してくれる。


「有り難うございます。
なので、お礼に送らせて下さい」


俺のそんな言葉に、くすくす笑い、


「はい、お願いします」と、


笑顔で了承してくれた。
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