【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

初めて口にするミルク以外のもの

「ハッ! メレンゲで作った焼き菓子です! お嬢様に食べていただこうと思って作ってみましたっ!」

「そうか、ありがとう。彼女もきっと喜ぶ」

彼がここに来た理由を把握したほかの料理人たちが手早く空のボトルや鍋を用意してくれる。キュリオは礼を言いながら気になっていたあの事をジルへと相談することにした。

「どうやらアオイは小食らしい。ミルクの間隔をあけてもわずかしか飲まないんだ」

心配そうに語る王へ神妙な面持ちで答えるジル。

「ふむふむ、おひとりで動けるようになればまた口にする量も増えると思いますが、食が細い子なのかもしれませんな……」

「あぁ、でも君がいるからあまり心配はしていないよ」

「ご安心をキュリオ様! このジルめにお任せくださいっ!!」

胸を張ったジルはガハハと笑っている。頼りにしているよ、と答えたキュリオは自ら温めたミルクを布に包み、厨房を後にした。
アオイを迎えに行こうと二階の通路に差し掛かると、聞こえてきたのは大人の女性の楽しそうな声と、時折混じる幼子の笑い声だった。

(……わざわざ場所を変えずともここで昼食をとるのもいいな)

柔和な雰囲気のなかでアオイが心穏やかに居るのならば場所を移動する必要はないと踏んだキュリオは、ミルクの温度を気にしながら扉を開く。

「お待たせアオイ、食事にしようか」

「きゃあっ」

すでに赤子用の椅子に座りミルクを待ち構えていた彼女。手足をバタつかせて喜ぶ姿にキュリオの目元が緩む。椅子からアオイを抱き上げ、ミルクボトルを傾ける王より指示を受けた侍女たちは、彼の食事の用意をするために部屋を出ていく。

「そうだアオイ、ジルがお前のためにお菓子を作ってくれていたよ」

「……?」

「ふふっ、ミルク以外のものを口にするのは初めてだね」

まだしゃべれもしない言葉を並べても無駄だとわかっているが、そう遠くはない彼女の意識のなかで言語と行動が結びつき、理解してくれる日が早く来ることを誰よりも望んでいるキュリオはなるべく多く語りかけた。

「あぁ、……大樹の露を口にしたお陰でおなかが空かないかもしれないと思ったが、やはりミルクを飲んでいるお前を見ると安心する」

小動物が潜んでいるように小さく上下する喉元に瞬きを繰り返すあどけない水晶のような瞳。
キュリオは繊細で愛らしい彼女が壊れてしまわぬよう、その一挙一動に気をつけながら手身近な椅子に腰かける。

「キュリオ様、お待たせいたしました。お嬢様のデザートもお持ちしましたので、わたくしが」

にこやかに近づいてきた女官の手にはジルお手製のあのメレンゲの菓子が美しく盛り付けられて姿を現した。
デザート用のグラスに盛りつけられた真っ白な泡のような菓子。焼き菓子だけあって綺麗な焼き目がついており、見た目にも食欲をそそる一品に仕上がっている。

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