【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
急いで庭園へ戻ったキュリオの視線の先では、テラスでティーカップを傾けるエデンの姿があった。
おそらく気を利かせた侍女たちが茶の席へと彼を誘導してくれたのだろう。

「すまないエデン」

「キュリオ殿、問題ない。気にしないでくれ」

小走りにやってきたキュリオを気遣うようにエデンが口角をあげる。

「忙しいのなら失礼するが……」

「……いや、すこし体の弱い赤子がいてね」

「言っていた育児中の子供か?」

「そうだね」

なぜか表情を曇らせたキュリオにエデンが問う。

「キュリオ殿でも治せない病なのか?」

「あぁ、原因がわからないんだ」

「なるほど……しかし悠久は公務も多いのだろう? 連れて歩くわけには……」

「…………」

キュリオは無言のままだ。きっと彼もそれを心配しているに違いない。

「提案なんだが、その子の傍に魔導師を置くのはどうだろう。キュリオ殿の力には及ばぬにせよ、家臣たちに預けるよりは安心できるんじゃないか?」

はっとしたキュリオはエデンの顔をみて頷いた。

「……そこまでは考えていなかった。そうか、それも一理あるな」


”――実はその子が子供と触れ合う機会をと思っててね。体のこともあるから少し先になるかもしれないが……”

”子供の魔導師といえば……俺の独り言だが、悠久の使者として来たチビたちだが、なかなか良い目をしていたと思う”


「…………」

(エデンが言っていたのはアレスとカイのことか)

<雷帝>とのやりとりを思い出しながら、二人の幼い少年の顔を浮かべキュリオは楽しそうに笑った。あの後、彼を昼食にと誘ったが、丸一日国に戻っていないという理由からエデンはあのまま悠久を発ってしまった。

そして時間にしてちょうど昼頃。キュリオはアオイの食事を用意するため厨房へと顔を出してみる。

「皆ご苦労だね。少し場所を借りるが、いいかな?」

「……っ!!」

「キュリオ様だっ!!」

「おおっ!!!」

またいつものような反応が返ってくる。会うたび初対面のようなリアクションを見せる料理人の彼ら。その中からジルの姿を探すが、どうやらここにはいないようだ。

すると――

「よおぉおしっ! 完璧だっ!!」

と、奥のほうから声がして勢いよく立ちあがった人物がいる。探していた<料理長>ジルだった。キュリオはそっと近寄り、彼の背後から手元を覗いてみる。

「それは何かな?」

「はいっ! キュリオ様!! こちらはっ……」

そこまで言って、はて? と振り返る。

「……なにっ!? キュリオ様っっ!?」

美しい空色の瞳と視線が合うと、大きな体が跳ねるように飛び上がった。このいつも楽しいジルの挙動はキュリオを笑顔にさせてくれる。

「驚かせてしまったね。それが何か聞いてもいいかな?」

にこやかな表情のキュリオは、ジルの手掛ける新しいものに興味津々の様子だ。


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