【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

　――それから月日は流れて……。


　……もう昼か夜かもわからぬ暗闇の中……
　少女は鉛のように重く、冷たくなった体を横たえたまま静かに目を閉じていた。



　頭上で轟く雷鳴がまるで死を宣告する死神のように唸りつづけるが、この状況に戸惑いもせず、胸元からあふれ出る鮮血もそのままに誰かの声に耳を傾けている。


男「まだ意識はあるか……？」


少女「…………」


　頷くかわりに少女は薄く瞼を開き、こちらを見下ろしている男の瞳を見つめ返した。癖のある短髪に太陽の光を宿したような金色の瞳。そしてその背に輝くのは……彼の瞳と同じ色の神々しい金の翼だった。


男「俺は……」


男「俺のためにお前を殺す」


少女「…………」


　少女は男の残酷な言葉を聞き、それでもなお蒼白い顔で優しく微笑んだ。


少女「……あなたは、う……そ、つき……です……」


男「……俺はいつも本心を語ってるつもりだが？」


少女「……いいえ……」


　辛そうに顔を歪め、咳き込んだ彼女の口からは大量の血液が流れ出た。
　男は手に持った猛々しい神具を地面に置くと彼女を左腕で支え、右手で口元の血をぬぐってやる。


男「……なぜそう思う……？」


　すると絶命寸前の少女は幸せそうに笑った。



少女「だって……いまの、あなた……」



少女「……泣いている……も、の……」