神様修行はじめます！ 其の五

『尊い犠牲』と言い繕ってはいるが、実際はただの無理強いだ。


　なにより水晶が、ひどく心を痛めている。


　長の娘である水園や水晶は、さすがに『尊い犠牲』に選ばれることはないのだが……


　我が身が安泰だからといって、平気でいられる水晶ではない。


　それにしてもなんと間が悪いのだろう。自分が結婚を申し込もうとした日に儀式とは。


　これではとても、めでたい話を持ち掛ける空気ではないだろう。


『父上たちに御用ならば、しばらく待て。今日の儀式は特に時間がかかる』


『さようでございますか？』


『うむ。なにやら今日の犠牲者は、特別なのだそうだ』


『……特別？』


『今日は一段と高位の宝物を、かなり大量に創る必要があるらしい。それにふさわしい血の持ち主が選ばれたのだ』


『…………』


　成重の胸に、ザワリと嫌な予感が波打った。


　大量の高位の宝物にふさわしい血の持ち主？


　それは、まさか……。


『……誰が選ばれたのでしょうか？』


『長の第二子の、水晶殿だよ』


『！？』


　成重の心臓が、氷の楔を打ち込まれたように凍り付いた。


　体中の血流が一瞬止まり、息も止まって気が遠のく。


　真っ白になった頭と心が、これはなにかの間違いだと強烈に否定した。


『そ、それは、なにかの間違いでしょう！？　長の娘が犠牲者に選ばれるなど、ありえません！』


『だから今回は特例なのだ。犠牲者の数を増やすか、水晶殿ひとりで済ますか。父上と兄上が小浮気に、どちらかを選ばせたらしい』


『そ、そんな……！』


『水晶殿が自ら、自分が犠牲になると申し出たらしいな。いや、見上げた心掛け……』


　最後まで聞かずに、成重は外へ飛び出した。