神様修行はじめます! 其の五
「うん。大丈夫だよ」


 適当な返事をしながら、こうして曖昧に笑うのも慣れちゃった。


 あたしがあちら側の世界に行っている間、現世であたしと関わり合いのある人たちの記憶は、うまい具合に改ざんされているらしい。


 お父さんたちの頭の中では、今日のあたしは学校の課題で帰宅が遅くなった……みたいな状態らしい。


 数日続けて家を空けることもあるし、学校関連も含めて、つじつまの合わないことは多いはずなんだけど……。


 誰も疑問に思わないんだよなぁ、これが。不思議なことに。


 いったいどんな作用が働いているのやら。説明されても理解できないだろうから、聞いたことはないけど。


「こんな遅くまで時間のかかるような課題を出されているのか? お父さんが先生に言って……」


「里緒、ご飯は?」


「食べてきた」


「じゃあ早くお風呂に入っちゃって。ちゃんと髪乾かすのよ?」


「うん」


 お父さんは普段、あたしのことに全然口出ししないのに、帰宅が遅くなったときとかは異様に口うるさくなる。


 逆に、普段あたしの生活態度全般に口やかましいお母さんは、お父さんがうるさくなるといつも助け舟を出してくれる。


 おもしろいなぁ。娘に対する男親と女親の態度の違いって。


 いつも通りのお父さんとお母さんの態度にクスッと笑いながら、あたしはお風呂場へ直行した。


 お風呂大好き。特にこんな疲労困憊の日は、ついつい長湯してしまう。


 シャワーヘッドからたっぷり流れるお湯で体をすすいで、バスタブに浸かって、ふうっと息を吐いた。


 ああ、本当にホッとする。こうして家に帰れば、あたしの分のご飯はいつも用意されていて、お風呂が準備されてて、お父さんがいて、お母さんがいる。


 この世界はあたしにとって、もうひとつの大切な場所なんだ。


 あちらの世界でどんな悲惨なことがあっても、ここに戻りさえすれば、すべてがいつも通りのままに迎えてくれる。


 その大切な場所で……なにかが起きるかもしれない。
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