神様修行はじめます! 其の五
「この気配はなんじゃ!? いったいなにが起きた!?」


 広間から飛び出してきた絹糸が、窓の外をひと目見て絶句する。


 あたしは目を剥いたまま、絹糸に向かって引っくり返った大声を張り上げた。


「絹糸ぉ! 家事! 家事だよ!」


「『火事』じゃ!」


「だから家事だって言ってるじゃん!」


 いや、そんな微妙なイントネーションの違いはこの際どうでもいいから、早く119番!


 あれ? それって救急車だったっけ? じゃあ110番か!


「いや違うって! パトカー呼んでどーするのよ、あたし! しっかりしろ!」


「まったくじゃ! しっかりせい小娘! これは普通の炎ではないぞ!」


 頭を抱えてワタワタしているあたしに、絹糸が鋭い声を浴びせる。


「お前、炎の一族の末裔じゃろうが! この危険な気配が読み取れんのか! 情けない奴じゃ!」


「へ?」


 絹糸に一喝されて、あたしは目をパチパチさせた。


 そして両手で頭を抱えたまま、ちょっと冷静さを取り戻した目で炎をジッと確認する。


 危険な気配って言われても、そもそも危険じゃない家事……いや、火事なんてあるの?


 世の中の火災現場というものは、たいがい危険というのが一般的な決まり事で……。


「ん?」


 一瞬、炎が奇妙な揺らぎを見せた。ような気がした。


 舌のように細かく枝分かれしている炎のそれぞれが、なんか、自分勝手に動いているみたい。


 火って空気の流れに沿った一定の動きをするはずなのに、なんでこんなバラバラな……?


 と思った瞬間、あたしは、目の前の光景に再び目を剥いた。
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