君の中で世界は廻る〜俺様ドクターの唯一の憂い〜
流人はきゆの両親の顔を思い浮かべ、笑うのを堪えた。
「ひどいよね…
ひっくり返したなんて…」
「いいじゃん、俺はきゆって名前好きだよ。
珍しいなって思ってたけど、その由来を聞いてなるほどと思った。
きゆのお父さん達、センスあるよ」
流人は外を見ながら、きゆを更に抱き寄せた。
「うん、今は気に入ってるからいいんだけどね。
今まで同じ名前の人に、まだ会った事ないし…
流ちゃんの名前は?
流って字はちょっと珍しいよね?」
「流の字は、どういう状況でもその時の正しい流れにちゃんと乗れるようにだって」
「院長先生らしい」
きゆはそう言ってクスッと笑った。
「絶対的じゃないところが先生のいいところだもんね。
私達にも、いつも考える時間を与えてくれて、言われてやるんじゃなくて考えて自分で率先してやることを教えてくれたもの」
流人は特に何も言わなかった。
「流ちゃん、院長先生と奥様と話せた?」
きゆはこの流れなら自然に聞けると思い、流人にさりげなくそう聞いてみた。
「きゆ、ケーキ食べようか」
流人はきゆの話を軽く無視し、またテーブルに戻る。
きゆはそんな流人をジッと見ながら、胸の中を支配し始める不穏なざわめきを何度も飲み込んだ。