副社長とふたり暮らし=愛育される日々
「へっ? でも、それじゃ……」

「どっちみちこうするから」


その瞬間、手を引かれてバランスを崩した私は、副社長に向かって倒れ……そのままぎゅっと抱きしめられてしまった。


「ひゃ……! ちょっ、副社長!?」


温かな鼓動を感じる胸にぴたりとくっついてしまい、心臓がバクバクと踊る。

ほんのり甘めのいい香りがするし、手触りを確かめるように背中を撫でられて、妙な気分になってしまう! なんだろう、この不快じゃないゾクゾクする感じは。

動揺しながら腕の中で硬直していると、副社長は吐息混じりに囁く。


「……ずっと抱いていたい」


かぁぁっと身体が熱くなる。

なんでこんなセリフをさらっと言っちゃうかな、この人は! ていうか、絶対抱きグセがあるよね!

恥ずかしくて、こたつで丸くなる猫のごとく縮こまっていると、なめらかな声が耳に流れ込んでくる。


「あと、昨日教えただろ。ふたりの時はなんて呼ぶんだ?」


あぁそういえば、『仕事中じゃないんだから、“副社長”はやめろ』と言われたんだった。

これに慣れていたから、なんだかすごく気恥ずかしいけど……。


「さ、朔也さん……」

「そうだ。忘れるなよ」


ふっとこぼされた笑いが鼓膜をくすぐり、拒否する理由もない私は従順に頷いた。

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