副社長とふたり暮らし＝愛育される日々
「りらちゃん、もっとこう、“恋しちゃってます私！”みたいな空気出せないかな～」

「はぁ……」


首をひねるチームリーダーさんに、私は困り果てながら曖昧な返事をした。

恋なんて……最後にしたのはいつだっけ？と考えてしまうくらい、私は恋愛から遠ざかっているのだ。どうやってそんな空気を出したらいいものか。

床に落ちた花びらを見下ろして唸っていると、目の前にしゃがむエンジェルボーイ、宝生 海都（ほうしょう かいと）くんが、私の顔を覗き込んでくる。


「りらさん、俺のこと嫌い？」


少し眉を下げ、子犬のようにうるうるとした瞳でそんなことを言われると、なぜか逃げたくなってくる。


「いいいいえ、そういうんじゃないんですけど……！」


ライトブラウンの長いウィッグをふるふると小刻みに揺らしながら首を振り、慌てて否定した。

彼に対する申し訳なさに襲われつつ、しっかりやらなきゃ！と気合いを入れる。しかし、要求に応えようとしばらく頑張ったものの、納得いくカットが撮れないようで……。


「ちょっと休憩しよっか」


困った笑顔のカメラマンさんに、そう言われてしまった。

あぁ、情けない……。皆にも迷惑がかかってしまうし、このままではイメージモデルも降ろされてしまうかもしれない。

< 2 / 265 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop