副社長とふたり暮らし=愛育される日々
集中しなきゃ、と気合いを入れ直し、ひき肉や調味料を混ぜたじゃがいもを丸く成形していく。


……だいたい、副社長はどうして私にあんなことをしたのだろうか。

いくら撮影がうまく進んでいなかったとはいえ、明智さんの様子からすると、副社長だって忙しかったはず。私に構っている暇なんてなかっただろうに……ただの世話焼きなのかな。

でも、あの感じからして絶対女の扱いには慣れているよね。さすが、デキる男は違うわ……


……って、やっぱり考えちゃってる! タネを丸める単純作業は考える時間に最適だもの、ダメだこりゃ。

ひとり脱力して手の平の上でタネを転がしていると、私の隣に調理員仲間であるちょっぴりふくよかな体型のおばちゃんがやってきた。


「瑞香ちゃん、手伝うわ」

「ありがとうございます」


隠れていない目だけでも優しさを感じさせる彼女は、五十代前半の芳江(よしえ)さん。この職場の中では一番仲良くしてくれている、気前が良くておおらかな人だ。

お弁当や、数十種類の惣菜を計り売りしている“ふくろう”は、店長の奥様と高校生の娘さんが主に販売をしていて、調理員は私を含めて四人という、アットホームな職場だ。

お店は昔ながらのレトロな外観で、二階は店長家族の居住スペースになっている。

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