副社長とふたり暮らし=愛育される日々
またフロアの中を物色し始める彼を、何をしているんだろうと思いながら見ていると、コートやら靴やらを店員さんと一緒に持って戻ってきた。

言われるままチェスターコートを羽織り、細いヒールのショートブーツを履くと、副社長は私の全身を眺めて満足げに微笑む。


「よし、完璧。このまま行くぞ」

「えぇっ!? で、でも私の服──」


副社長に手を取られ、戸惑いながら試着室のほうを振り返った私はギョッとした。

脱ぎっぱなしにしておいた私の服、つまりゆるキャラトレーナーを、店員さんが笑顔で手にしていたから。


「こちらは袋にお入れさせていただきますね」


ぎゃあぁ、見ないでー!! その親切心は結構ですって!

一瞬叫びそうになったけれど、ここは高級なショップの中なのだと必死に抑える。しかし、顔は絶望で引きつってしまい、そんな私を見て副社長はなんとか笑いを堪えていた。



私が動揺している間に、副社長はスマートに会計を済ませて、一階へと下りた。

さっきちらっと見たカットソーの値札には、ゼロが四つついていた。やはり決して安くはないお店だろうし、コートやブーツも買ったのだから、いいお値段だったに違いない。

それなのに、なんのためらいもなく親しくもない私にプレゼントしてくれちゃうなんて……裕福な人の思考は理解しがたい。

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