謎解きソルフェージュ
第一章/川瀬鞠子はいかにして八月の昼下がりに麹町に足を運ぶことになったのか
女子大生が殺人事件の捜査に携わる———

なんてまるで『羊たちの沈黙』ではないか。
川瀬鞠子(カワセ マリコ)の胸のうちは沸き立って。
心臓はさながら武者震い状態だ。

正確にいえば『羊たちの沈黙』のクラリス・スターリングはFBIアカデミーの訓練生という選ばれたエリートであり、鞠子はゼミで犯罪心理学を専攻しているごく普通の大学四年生だ。

クラリスは教官の命を受けて、連続殺人事件の解明のために収監されている天才的精神科医ハニバル・レクター博士と対面することになるのだが。

鞠子はといえば、ゼミの教授にとある事件の捜査資料を教授の知己に届けることを頼まれた、という、まあ要は使い走りだ。

だとしても、自分が犯罪捜査の末端に関わっていることに変わりはない。
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