謎解きソルフェージュ
第二章/その男、水埜 泉


重い・・・・

腕にずしりと加わるアタッシュケースの重さ。
そこに詰められた書類の価値と重要性を、身体で感じる。

八月某日、鞠子は国立から中央線快速で四ッ谷まで出て、そこから総武線と有楽町線を乗り継ぎ、麹町に到着した。
時間にして約一時間だ。

気分だけは、任務を遂行するクラリス・スターリングとしてアタッシュケースを運んでいる。
胸をそびやかすクラリス鞠子だが、物理的に重いものは重い。麹町に着いたころには、腕が数センチ伸びた心地だった。

にぶい光沢をはなつアタッシュケースはロックがかけられ、解除コードは教授が先方(水埜 泉)にメールで伝えるという念のいれようだ。

中にぎっしり詰められているのは、警察の捜査資料だ。
もし万が一にもこれを外部に流出させてしまったら———
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