純情シンデレラ
とにかく今は、がんばった自分を労わること。
倒れるのは家に着いてからでも遅くはない。
松本さんにとっては、印刷所の人たちにデータを持ち込んだ時点で、ようやく「仕事が終わった」と言えるんだから、まだ気を緩めることすらできない状態のはずだ。
二人一緒に合わせた努力を無駄にしないためにも、今、松本さんに迷惑をかけるわけには、絶対にいかない。

そう自分に言い聞かせながら、気力をふりしぼったおかげで、私はどうにか、いつもどおりのふるまいができたと、自分では思ってる。
でも松本さんは、医者であるお父様の影響を受けて「多少医療の知識がある」と言っていたから、もしかしたら私の症状に気づいていたかもしれない。
それでも松本さんは、私と、自分自身の気持ちを汲んでくれたのだろう、言及せずに駅でタクシーを拾うと、一人で印刷所へ行ってくれた。

タクシーに乗る前、私の手をギュッと握って、「気をつけて帰るんだぞ」と言ってくれた、松本さんの力強い声と、ゴツゴツした大きな手の感触に励まされた私は、柳谷(りゅうこく)駅に迎えに来てくれていたお父さんと一緒に、無事家までたどり着くことができた。

そして家に着いた途端、安心した私は、ホッとして倒れ込んでしまった。

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