純情シンデレラ
「俺は“帰れ”と言ったはずだ・・・ん?」

途中まで威勢が良かった、聞き慣れた低い声が聞こえたので、私は歩くのを止めた。
そしてドアの方を見ると、ガッシリした体をドアに寄りかからせた松本さんが立っていた。
怪我をしている右足は、重心をかけないように少し浮かせている。
負担をかけないようにという無意識の配慮なのかしら。

私は「・・まつもとさん・・・」と呟きながら、彼の方へ再び歩いた。

「君だったのか。すまん。別の奴だと勘違いをして・・」
「姫路さん、ですよね。階段から下りてきたところを見たから」と私が言うと、松本さんは肯定するように頷いた。

「あの・・松本さんからお電話があった後、上野課長からもお電話をいただいたんです。松本さんの怪我の具合を知りたがっているんじゃないかと気にしてくださって。それで、4・5日は仕事を休まないといけないって聞いて・・松本さんはそこまで酷い怪我だなんて言ってなかったから。でも、電話して聞いても、あなたのことだから、たぶん本当のことを言ってくれないと思って、それで・・・」
「怪我は本当に大したことないんだ。課長が大げさに言っただけだ」
「じゃあ課長が嘘をついたと言うんですか」
「・・・・・・医者もそういうことを言ってた」
「ほらやっぱり!」
「だが自力で歩けるのは本当だ!現にここまで俺一人で歩いてきた!それに」と言いながら、松本さんはグッと私に顔を近づけた。
< 148 / 530 >

この作品をシェア

pagetop