純情シンデレラ
私の直属の上司である、電算課の上野課長には、電車内で痴漢に遭ったこと、その報告をするために、駅長室に行っていたので遅くなってしまったと言った。
松本さんのことは、「たまたまその場に居合わせて、私と同じ職場だと分かり、わざわざ駅長室まで一緒に行ってくれたんです」と説明をしておいた。
一部は本当だけど・・・松本さんが痴漢犯人だと確定してないから―――「今はまだ」と、私の心の一部が囁く―――、「本当はこの人を警察につき出してやろうと思って、近くにいた駅員さんに最寄りの警察署を聞いたら、すぐさま二人そろって駅長室へ通されたんです」という“真実”は、言わなかった。
「疑わしきは罰せず」じゃないけれど・・・要は、父が書いている小説の主人公の、日暮(ひぐらし)警部が言うように、「疑惑だけで確証がないうちは、犯人扱いしちゃいけない」だ。
松本さんは、まだ「疑惑」の段階。
しかも「不知火商事」は、松本さんと私の勤め先でもある。
だから、これ以上この人を難しく、そして恥ずかしい立場に置くべきではないと思う。

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