純情シンデレラ
フランスに2年滞在していた有栖川さんは、紳士的な優しさというものを持っている人だし、スラッとした長身で、柔らかな物腰、少しふんわりした茶色の髪に、整った顔立ちは、まるで王子様のようにカッコいい。
あの姫路さんも「有栖川の王子」と言っていたくらいだから、きっと有栖川さんが属しているお金持ち社長階級の間でも、その路線で有名なのだろう。

ただ、有栖川さん自身は、ご家族のことや仕事について、自分から進んで話そうとはしなかった。
会話の流れ上、話してしまうことがあっても、ほとんどが愚痴めいたことしか言わなかったし。
私自身、本人が話したくないことを無理矢理話してもらおうとは思ってなかったし、有栖川さんのご家族や仕事について、あれこれ知りたいとも正直思ってなかったので、そっちの方向に話題を持って行かないようにしていた。
けれどあのとき―――最後の練習をした日―――だけは別だった。

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