お別れ記念日


「気に入ってもらえたかな?」


宏樹さんの少し色っぽい笑み。


「うん、素敵なホテルだね」


改めて、部屋の中をぐるりと見渡す。


ベッドの上に宏樹さんのカバンが置いてある。


いつも仕事に持って行ってるもの。


わたしがプレゼントであげたもの、こうして使ってもらえるのはとても嬉しい。


再び彼の方を見ると目が合った。


彼の瞳にわたしの姿が映っている。


2年経った今もこうして見つめられたらドキッとする。


彼の手がわたしの頬に触れる。


指がわたしの唇をなぞる。


目を閉じると唇が重なった。


お互いを求める、キス。


彼の背中に手をまわして、しがみつく。


唇が離れ、ふと窓を見ると、反射で映った自分たちの姿が目に入った。


こうして、唇を重ねるのも、今日が最後なのかな。


背中にまわしていた手を離す。


瞬きをした時、暖かい雫が頬を伝った。


──泣かないでおこうと思ったのに。


ストッパーが外れたみたいに、次々に涙が溢れてくる。


「……っ、ひろっ……きさん、ごめん……っなさい」


泣いたら、せっかく宏樹さんが用意してくれた最後の日が台無しになってしまう。


分かってるのに涙が止まらない。


宏樹さんの指がわたしの頬の涙を拭う。


彼は何も言わない。


ただ、ずっと、何も言わず涙を拭ってくれる。




「宏樹さん……わたし、宏樹さんと別れたくない。まだ宏樹さんと一緒にいたい。悪いところあったら直すから。だから別れるとか言わないで」


少しだけ落ち着いた時に一気にそう言った。


我慢できなかった、離れたくない想いが強かった。


宏樹さんはわたしの頭を撫でた後、ベッドの上に置いてあるカバンを手に取った。


もしかして帰っちゃう?


わたしやっぱりめんどくさかったかな?


また泣いてしまいそうだ。


やだ、帰らないで──。


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