お別れ記念日
「景子に渡したい物があるんだ」
彼のカバンから小さな四角い箱が出てきた。
宏樹さんがその箱を開けると、上下に開くケースが出てきた。
これ、もしかして……。
「景子、オレと結婚してください」
彼がケースを開くと、そこには光が当たるとキラキラと輝くダイヤモンドがついた指輪が入っていた。
窓の外の夜景に負けない輝きを放っている。
──今起きている出来事に頭が追いつかない。
え?これはつまりどういうこと?
お別れ記念日じゃなかったの?
「宏樹さん……?」
「ごめん、ちょっといじわるしちゃったね。恋人最後っていうのは、別れるっていう意味じゃなくて、恋人という関係を卒業して、家族になりたいってこと」
ケースから指輪を取り出し、わたしの左手を取って薬指につけた。
「良かった、ピッタリだ」
左手の薬指につけられた指輪が輝いている。
別れなくて良かったことと、突然のプロポーズにまた涙が溢れてきた。
「付き合う時は居酒屋でテキトーに済ませちゃったけど、プロポーズはちゃんとしたいと思って。ここに来る前に予約してた指輪取りに行ってきたんだ」
仕事で遅れたわけじゃないんだ。
この指輪をわたしに渡すために。
"素敵な夜を過したい"
あの時の言葉の意味がようやく分かった。
こんな素敵な夜、初めてだ。
「景子は本当に単純。で、泣き虫。でも仕事で会えない時もオレを責めるなんてことしなくて、我慢強い。そんな景子に本当に支えられてきたんだよ」
左手の手の甲にチュッとキスされた。
「オレの傍にずっといてくれますか?」
そんなの──もう答えは決まってる。
「宏樹さんとずっとずっと一緒にいたい」