恋の音はすぐそばに
閉まるドアの隙間から、心羽の悲しそうな顔が見えた。


今日バイトがないことは知ってる。


家族共有のカレンダーにバイトなしって書いてあったから。


予定もないってお母さんに言ってるのも聞いちゃったから知ってる。


それでも嘘をついてまでお見舞いに行かないのは…。


「…瀬戸口、きたのか」


「はい。…こんにちわ、紫緒先輩」


この人と過去に何かあったから…だよね?


ここ一週間お見舞いにきているからか、お兄さんの紫緒先輩とも話すようになった。


菜緒先輩とはまた逆の性格の紫緒先輩。


ふんわりしてる菜緒先輩と、少し強引な紫緒先輩。


双子でもこんなにも違う。


「ん、…まだ眠れてないのか」


どうして心羽も紫緒先輩もこんなに鋭いのだろうか。


気づいてほしくないのに、気づかれる。


「まぁ、寝ろって言う方が無理だな。だけどな、それでお前が倒れてたら元も子もないからな」


あ…その言葉は…。


「くすっ」


「…何笑ってんだよ」


そんな怖い顔で睨んだって怖くない。


今は…だけど。



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