失恋相手が恋人です
「あれ、沙穂ちゃん、吏人くんと知り合いなの?」

私を挟んで歩美先輩と吏人くんが向かい合っていた。

「いや、先輩。
それは俺の台詞なんですけど……」

困惑しながらもしっかり突っ込む吏人くん。

「そっか、吏人くんも二回生だもんね!」

納得した、と言わんばかりの笑顔の歩美先輩。

納得できる説明は何にもされていないけれど、歩美先輩の中では納得出来たらしく。

けれど、何故私が歩美先輩と知り合いなのか不思議顔の吏人くんに私は経緯を説明する。

「あっ、もしかして、吏人くんの彼女さんが沙穂ちゃんっ?」

キラキラな瞳で検討違いの期待をしてくれる歩美先輩。

「ち、違いますっ
吏人くんの彼女は私の親友です。
今日はここにはいないんですけど……」

思わぬ話の方向に全否定。

「そうなの?
残念、吏人くんが溺愛しているって噂の彼女さんに会いたかったなぁ」

至極爽やかに笑って、先輩は教授との約束があるから、と去っていった。

「独特のペースだな、やっぱり……」

ポツリと吏人くんが呟く。

「そうだね……。
っていうか吏人くん、歩美先輩と知り合いだったんだね」

「うん、中学校が一緒だったんだよ、桧山と同じ」

吏人くんの口からさらっと出てきた桧山くんの名前に少しドキリと心臓がとび跳ねて。

そのドキリをできるだけ上手に隠しながら私は笑う。

「そう……なんだ。
じゃあ、皆ご近所だったの?」

「まぁね、でも俺も……確か先輩もあれから引っ越したから、変わってないのは桧山の家くらいかな?
先輩は昔からあんな感じで、誰にでも話しかけてくれるからね。
俺も桧山も、委員会が一緒だったっていうだけの接点だったのに、いつのまにか顔を合わせば話すようになっていたよ」

あの通り美人で、いい人なんだけど、ものすごくマイペースだからね、と苦笑しながら吏人くんは言う。

「そういや、沙穂ちゃん、課題の本を返却に来たんだよね?」

「うん、あれ、何で知ってるの?」

思わぬ指摘にキョトンとする私。

「萌恵が言ってた、で、司書さんに沙穂ちゃんが必要な資料を預けておいてねって言われてさ。
預けてるから、帰りに貰って。
沙穂ちゃんには後でメールしとくって萌恵が言ってたけど」

「え?本当に?
いつもありがとう、吏人くん」

「ううん、萌恵がいつもお世話になってるからね」

ニコッと明るく笑って吏人くんはバイト終わりの萌恵を迎えに行くと帰っていった。

本当によくできた彼氏さんだよ……萌恵……。

自分の彼女のフォローだけではなく、彼女の友人にまで優しいだなんて……。

吏人くん、中学、高校時代はきっともてただろうなぁ、と一人思う私。

あの三人の中学生時代ってどんなだったんだろう、やっぱり華やかだったのかな。

そこまで思い至った時。

一つの可能性に気が付いてしまった。

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