失恋相手が恋人です
「イヤイヤ、でも、今さらこの時期に?
だって、もうすぐ四回生だよ?
卒業は?
っていうかそもそも就職活動とかさ……」

「……今年の春になったらアメリカに留学するんだって。
お父様の系列会社に入社して修行してから帰国するって……」

簡潔に昨夜葵くんから聞いた話を伝えた私に萌恵が黙りこむ。

改めて言葉にすると現実感が私を襲う。

「やっぱりバチがあたったんだよね……」

自嘲気味に視線を落とす私の手を萌恵が優しく握った。

「沙穂、そう思うなら桧山くんがアメリカに行ってしまう前にきちんと話せばいいだけでしょ?
桧山くんだってアメリカに行ってずっと帰ってこないつもりじゃないでしょ?
休暇になったら戻ってきてくれるだろうし、沙穂が行ったっていいじゃない?
悲観的にばっかり考えちゃダメだよ」

「でも……」

どうしても悲観的になってしまう私。

泣くつもりもないのに、泣いたってどうしようもないのに涙が頬を伝う。

「……沙穂……。
桧山くんが本当に好きなんだね……」

萌恵の言葉が心に染みる。

そう、どんな時も私は葵くんが大好きで、いつもいつも葵くんを見ていた。

私のことを彼が知らなかった時も、気持ちが通じあっていなかった時も。

その葵くんが私の前から居なくなってしまう。

別れようと言われたわけではない。

だけど二人の距離が離れてしまったら、彼の気持ちも離れてしまうと思ってしまう。

他に好きな人ができたと言われたら、私はきっと立ち直ることはできない。

ただ黙って泣き続ける私に萌恵がタオルハンカチを差し出す。

「もう、沙穂、泣いちゃダメだよ。
不安もわかるけど、未来はわからないでしょ?
そもそも桧山くんが留学することだって本決りなの?」

何とか私を慰めようとしてくれる萌恵の気持ちが有り難くて私はまた泣いてしまった。



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