桜龍

思う

窓の襖を少し開けそのフチに腰を降ろした…

顔を上げ、空を見た…

そして、月を見て思うのはいつも同じことだ…

なのに、いつも月を見るのをやめることができない

きっと、あの人に一番近い場所だからだろう…

もうあの人の顔さえ、思い出さないように心の奥底にしまったのに…

あの人の顔を思い出してしまえばあたしが壊れていくのは自分自身で理解している

それでも、あたしは忘れない…

自分の罪を、自分が成すべきこともわかっているのに、なぜまだあたしは、踏ん切りがつかないんだ…

こんな経験するのは、初めてだ…

自分の罪を償わなくちゃいかないことくらい分かってるのに…

ちゃんと立ち直り、償わなければならないことくらい頭ではちゃんと理解してるのに

なんで、心だけは立ち直ってくれないの?

お願いだから、強いあたしでいさせて…

強いあたしがいなければ、あたしがあたしではなくなる…

強いあたしがいてこその〔あたし〕という人間なのだから…

月を見ながらそんなことを考えていたら

「紘…」

ふと、後ろから声が聞こえた

振り返ると、ダルそうに頭を押さえてる魁斗が上半身だけを起こしていた

『あ、起こしちゃった?』

しまったな…襖を開けちゃったからかな…

襖を開けるだけで結構明るいもんね…

そんな事を考えていたあたしの目を射抜くように見て

「今、何考えてたんだ?」

『え?』

魁斗の目がしっかりとあたしを捉えていた

「何考えてたんだ?」

あたし、顔に出してたのかな?

『なんにも、考えてないよ。月が綺麗だなって、思ってた』

こんなありきたりな言葉で魁斗が騙されないことくらい分かってるのに、うまい言い訳がすぐに思い付かなかった…

内心慌てているあたしをしっかりと見て

「今すぐ俺らを信じろなんて言わない。けど、俺らを信じて頼りたい時は頼れよ。」

えっ!

それだけ言って魁斗は、また寝てしまった…

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