つま先で一歩
夜景マジック、さっきまでの大人な空間が自分を大胆にさせそうで怖い。

一緒にどうですかと言ってしまいそうになって慌てて自分を抑えた。

自分の中の暴走はまだいいけど誰かを巻き込んだ妄想の暴走はご法度、早く立ち去るに限る。

「森川さん…もしかして僕の事嫌いだった?」

「はい?」

「これでもかってくらい拒否というか遠慮するから、嫌われて…。」

「まさか、そんな事は…っ!」

慌てて両手を振って否定しようとすれば、ポケットから抜いた手に巻き込まれて何かが飛び出してきた。

カシャン

「何か落ちた…。」

「え?」

言うが早いか一瞬にして全身の毛穴が開くほどの衝撃が私の中に広がった。

私の足元に音を立てて落ちたのはカードキー。

しかもこのホテルのゴージャスなロゴ入り、部屋番号も見える表側を上にしてお披露目されているなんて。

「不注意!!」

よく分からない事を叫びながら光速で拾ってももはや合わせる顔なんて持ち合わせていない。

見た、絶対に見た。確実に見られた予感で体温が急上昇していく。

これはもう、逃げるしかない。

「お疲れさまでした!!」

とにかくこの場を離れたくて私はエレベーターを目指して走った。

どうやったらこの部屋に行けるの?

確か宿泊階に繋がるエレベーターはどこか別にあった筈、でも何でもいいから離れないと。

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