こい
7 かざむき



最後に春之に会ってから、受験という大義名分を振りかざして、長いこと本家には行っていなかった。

ところが10歳違いの兄が先日入籍してそのご報告に行くことになり、ついでにお墓参りもしようと私も無理矢理に引っ張り出された。

お彼岸も過ぎた10月半ば。
この時期ならば私たち家族以外は誰も来ないはずだ。


「陽太君おめでとう!」

おばさんは抱きつかんばかりの笑顔で迎えてくれた。

「ありがとうございます。すっかりご無沙汰してしまって申し訳ありません」

兄は祖母の三回忌法要以来、実に8年ぶりの訪問だった。

「式は来年?」

「はい。あいの受験が終わった4月に。お忙しいでしょうけど出席していただけますか?」

「もちろん行くわよー。もう箪笥の奥から着物取り出して選んでたところなんだから!あいちゃんも頑張って合格しないとね」

「はい。頑張ります」

水を差すつもりは全然ないのだけれど、我が家はどうしてもお祝い自粛ムードとなる。
不合格になって親戚一同に憐れみの目を向けられるのは私としても避けたい。

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