こい
番外編 デジタルの声とアナログな熱を君に

デジタルの声




2時48分。
腕時計を確認して歩き出し、ふと違和感に気付く。
もう一度目を向けた時計の秒針は止まっていた。

このまま信じ込んでいたら危なかった。
取り出した携帯で確認すると3時16分。
念のため最終で取った新幹線にはまだまだ余裕がある。


仕事はもう終わったから、行きは通り過ぎるだけだった商店街を、今度は楽しみながら駅前ロータリーまで歩く。
個人商店がまだまだ現役というのは、チェーン店とはまた違う活気がある。

ふと、控えめな色合いのショーウインドウに脚が止まった。
クリスマスツリーにキャンドルライト、窓ガラスには雪の結晶。
しっかりした飾り付けがなされているのに店の落ち着いた雰囲気を損なっていない。

その中で寄り添うように並べられたペアウォッチは時計という存在価値を無視して、時を止めたように輝いていた。
無駄のない深い青。

青いイチゴ飴を欲しがった彼女なら喜ぶだろうか。
このアナログ時計のように時間を忘れて一緒にいたいのだと伝わるだろうか。

だけど、俺が贈ってもいいものか躊躇う。
身につけるものは彼女を縛って、いつか見るのも辛くなってしまうかもしれない。

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