こい


本家の入り口が見えて、どちらからともなく手を離した。

「あい」

春之は相変わらずの素っ気なさで口にしたけど、わずかに色合いが変わっていた。

「今日は法事だからさすがに言えないけど、近々おじさんとおばさんに怒られに行くから都合きいておいてね」

余韻にひたって立ち尽くす私を、春之はこれまで「あいちゃん」と呼んでいたときよりも、ずっと密度の濃い声でまた呼んだ。

「あい?」

「あ、うん。わかった」




きっとこれからも「好きだ」とか「愛してる」なんて、めったに言わない人だろう。

だけど、もう子どもじゃない私はその呼び声の中に深い愛が込められていることが、ちゃんとわかるようになっていた。








end


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