こい



「また、泣かれた」

春之は困った声で、それでも背中からぎゅっと強く抱き締めてくれる。
今日はバレないように急いで背中を向けたのに。

大抵は我慢するけど、肌に直接春之を感じてしまうともう無理。
身体に収まり切らない気持ちが涙になるのだ。
春之が辛そうな顔をするとわかっているけど、どうしようもない。

「どうしたらあいを泣かせなくて済むのかな」

「ごめんなさい。春之のせいじゃないから。幸せ過ぎるだけだから。枕、ビショビショにしちゃった」

「枕くらい構わないよ。俺が、長いことあいを追い詰めてたからだよね」

必死で首を横に振るけど、やっぱり春之は納得せずに腕の力を強めた。

「俺はあいの気が済むまでずっと一緒にいるから」

内容よりも期限を切られたことがショックで、モゾモゾ身体を動かして春之に向き合い、しがみつくように肌に爪を立てる。

「だったら一生気が済まない!」

「それでもいいよ」

「私は春之に釣り合ってないのに?」

「俺だってあいに釣り合ってない」

付き合ってすぐに春之は私の両親に挨拶してくれた。
父も母も面と向かって反対するようなことはしなかったが、それ以来春之の話題は口にしない。

< 91 / 92 >

この作品をシェア

pagetop