ネガティブ女子とヘタレ男子

決して千秋ちゃんの方へ振り向かない様に、溢れ落ちる涙に気づかれないように。

自分の事よりも、人を大切に出来る優しい女の子。そんな千秋ちゃんには俺みたいな奴じゃなくて…もっと純粋(じゅんすい)に、君だけを愛してくれる奴がすぐ側にいる事に気づいてほしい。

君が泣いたとき、慰めるのは俺じゃない。
君が楽しいと笑うとき、側で一緒に笑えるのは俺じゃない。

君の家で、君だけを心配して帰りを待っているアイツこそ、君を慰(なぐさめ)め、笑い合える一番の相手だと思うから。

(口が悪いけど優しい、俺の自慢の親友。)



俺の勝手な気持ちでも、千秋ちゃんが帰る場所はアイツだけでいてほしいーー



それが、俺の千秋ちゃんへ対する気持ちだ。

ぐすぐすと後ろで鼻を啜(すす)る女の子を置いて歩みを進める。

「ぅ、うぅ…っ。千秋、千秋は…っ、柊くんがっ、好きです。さや、たんも大好き…っ。」

夜の風が、生ぬるく濡れた頬を撫でた。

「…。」

「さやたん、っ、に…嘘をっ、かせてごめん、なさい…。」

「…。」

「二人が、喧嘩する原因になって…ごめんなさい…!」

(違う、それは違うよ。千秋ちゃん。)

声をあげて泣き叫ぶ千秋ちゃん。どんなに否定したくても、俺がそれを答えてはいけない。心の中で何度も違うと繰り返しながら、遠くなっていく千秋ちゃんの声に耳をかたむけ続ける。

うあああ。と響く泣き声が聞こえなくなって、俺は力無くその場に崩れ落ちた。

ーーー何がこんなに苦しいのか。

きっと千秋ちゃんも、あんな形で俺に告白するつもりなんてなかったはずだ。それをさせてしまったのは、彼女が謝り続ける意味を作ってしまったのは…。

「こんなに苦しくて辛いのに、何で…何で俺は爽ちゃんの事しか考えられ無いんだ…っ。」

断る方もこれだけ辛いなら、告白した方は、フラれた方はもっと辛い。ズキズキと傷み続ける心臓を服の上から握りしめて、俺は一人夜の歩道で涙を流した。

「好きって、好きになるってなんだよ…っ。」



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