ネガティブ女子とヘタレ男子

脳内で繰返し流れる映像は、楽しそうに地球温暖化の手助けをする太陽とはまったく逆で、氷のように冷たいものばかり。

「暮人。オイ、起きろ暮人。」

あの後千秋ちゃんはどうなったのか。俺には確かめに行く勇気はなかった。あれからずっと、何となく天とも気まずくて話ができないまま迎えた夏休みは、余りに退屈(たいくつ)過ぎた。

「起きろって言ってんだろーがっ!」

「イッテ!ばっ、おま、デコピンで起こすやつがどこにいんだよ!もっと優しく起こせ優しく!」

「呼んでも起きなかったお前が悪いんだよ、ばーか。」

「馬鹿って言う方が…って、何で天がここにいんの…。」

「はは、気付くの遅すぎ。」

突然感じた額への強い痛み。
いつの間にか夢の世界へ旅立っていた俺は、天のデコピンで目を覚ました。

母さんが居た筈の家に、いる筈の無い天がいる。

予想もしなかった展開に、さっきまでの夢が重なって天の目を見て話すことができなかった。

「美雪さんとちょうど玄関前で入れ違いになってさ、お前にお買い物行ってくるからお留守番よろしくねって伝えといてって言付かって来た。」

「あ、それはどうも。って違う違う。人の母親をさん付けで呼ぶな、そんで人を起こすときはもっと優しく起こせ、最後に不法侵入は犯罪だから!」

「美雪さんが入れてくれたんだよ。お前と一緒にお留守番しててねって。あ、ちなみに晩飯は俺が好きだからってハンバーグだから。」

「お前は母さんの何なの!何で実の息子より優遇(ゆうぐう)されてんの?母さんと何があったの!?」

「ふっ…ばーか。恥ずかしいから言わせんなよ。」

「あーいやもういいから黙って今すぐ黙ってむしろ今すぐ帰って…。」

「よく噛まずに言えました。」

「誰目線だよ!」

マシンガンのように打ち込まれるボケに、最終的に笑い出す。どれだけ突っ込みをいれても、その上を天は攻めてくるから笑わずにはいられなかった。

あははと俺が声を出して笑えば、天と気まずかった事が嘘のように二人で笑い合う。一通り笑えば、笑うことで鍛えられた腹筋が微かに痛みを主張した。




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