聖夜の奇跡
いつしか私の目からは、大粒の涙が溢れていた。

彼の指先がそっとそれを拭う。

「すまない、言葉足らずだった。
つい……その、照れ臭くて」

「……え?」

彼は私をそっと突き放すと、姿勢を正して前に向き直った。


「来栖から話を聞いて…… 
ようやく決心がついたんだ。
僕の有能な秘書が……いや、大切な女性(ヒト)が。
そこいらの男にかっ拐われるのを黙って見ているなんて出来ない。

僕を、君の結婚相手の候補に加えては貰えないか?」

目の前が真っ白になった。

なんて……ヒドイ男(ヒト)。

この期に及んで、まだそんなコトを!

「あ、あんまり、です。
ヒトの、私の気も知らないでっ‼」

ワナワナと肩を震わせながら、私はソファを立った。

卓上のバッグを乱暴に掴むと、ズカズカとドアに向かって歩き出す。
クロゼットから、コートを引ったくった時だった。 


「待ちなさい」


深く静かな、しかしズシリと重く響く声が、私の背中に突き刺さった。
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