そこの御曹司、ちょっと待ちなさい!

・狙い目は三男?

「本気で、九条慎吾(くじょうしんご)狙うつもり?」


私が使っているランニングマシンの隣で走りだしたかと思えば、挨拶もしないで、いきなりそんなことを切り出してきた男、澤谷大輔(さわたにだいすけ)。

三年前に少しの期間同棲していた元カレでもあり、私の本性を知る数少ない男でもある。


「もちろん本気よ」


午後六時、セレブ男性らしき人も見当たらないし、大輔相手に愛想振り撒く必要もないわね。

そう判断した私は、ガラス張りになっている窓の外に視線は向けたまま、マシンの速度を上げる。


東京都内にある高層オフィスビル五階、ガラス張りになっているフィットネスジム。

ミドルフロアの受付嬢として自らも働いているビルのジム、ここには大体週二日くらいは通っている。


同じくこのビルのミドルフロアに入っている会社のひとつである、食品会社の社員である大輔も、ジムの会員。

会えば挨拶くらいはするけれど、まわりには同棲していたことはいってないし、誤解されても困るから、人前ではほとんど話したりはしない。


「いくら御曹司だからって、九条はきつくない?
仕事は全くできない、何やらせてもダメ。
コネ入社ってみんな言ってる。
しかも、社長の息子っても、あいつ三男だろ?跡継ぎになるわけでもなし。

どこらへんがいいわけ?」


お互い視線を合わせないまま、たんたんとランニングマシンで走りながらも、会話を続ける。

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