拗らせDKの偏った溺愛



俺の手のひらの下はアスファルトに似てもにつかない柔らかさ。

どうやら俺はこの柔らかいものを下敷きにしたおかげで背中や頭を打たずに済んだらしい。

そう思って改めて俺の下敷きになっているものを見てみた。

それは、


「いたたたた…」


そう言いながら腰のあたりに手を当ててさすっているアイツだった。

さっき俺が鞄をひったくろうとした女だ…。


はぁ?

なんでこいつがこんなところに?


疑問があれこれ湧いてきたが、十メートルほど先でバイクを止めた金子先輩が


「おい、ヤバイから早く戻って来い」


と叫ぶもんだから、俺は慌てて立ち上がった。

その瞬間、足の下で


バキッ


と言う乾いた音が…。

そーっと見てみると、足の下にメガネがあった。


しかも俺が踏んで粉々になってる。


「あの、大丈夫ですか?」


足の下で粉々になっているメガネに気を取られていると、後ろから声をかけられた。


大丈夫?


こいつ今、俺に向かって大丈夫ですかって聞いたのか?


チラッと振り返ると、いまだに腰をさすりながら痛そうな顔をしているアイツが、俺のことを見上げていた。


こいつバカじゃねーの?

なにがどうなってこの状況になったかわかんねーけど、お前は俺に鞄をひったくられそうになったんだぞ?

それなのに、そのひったくり犯に向かって


「大丈夫ですか?」


なんて普通聞くか?


そう思ったけど、これ以上こいつに関わってると俺が捕まりかねない。

俺はせめてもの気持ちで踏み潰してしまったメガネを拾うと、アイツの手に乗せた。


「悪りぃな」


ポカンとした顔で俺を見上げるアイツにそう言うと、大慌てで先輩の後ろにまたがり、そのまま溜まり場まで帰った。




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