もう一度出会えたら
もう逃げ道はないのに、自分から動く事が出来なくて相手の出方をじっと待つかのように動けずにいた。


たった5秒位の時間が、拷問のように長く感じた。


目をぎゅっと固く閉じ、息もできずにいた私の耳にわずかに届いたのは


................スー..スー……


という規則正しい寝息で。


その瞬間、金縛りが解けたようにバッグだけを握りしめた私は、部屋を飛び出していた。


今しかない!それしか頭になかった。


鍵を開けたまま出ていく事に多少の罪悪感は感じたけれど、今の私には鍵を探す余裕も時間もなかった。


“ごめんなさい”


と心の中でつぶやき、音を立てないように玄関をそっと閉めた。
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