今はまだ、あいまいなままで。
「私が喜ぶデートってどういうの?」
自然と顔がほころぶのを隠して、強気で言う。
「……夜景が見える部屋、取ってある」
それが正解かどうか、少し自信のなさそうな固い声。
ねえ、正解なんてないんだって、聞いたでしょ?
「好きだ。もう一度やり直そう」ってはっきり言われたら、きっともっと嬉しい。
でも今、怖いくらいドキドキしてる。
「好きな感じの夜景かどうか、見てみないとわかんないな」
「じゃあ見に行こうか」
まだ食べ終わってもいないのに、中井くんはさっさと会計を頼んで立ち上がる。
「行動に出るって決めたんだ。楓の気持ちは尊重しない」
「威張って言うこと?」
エレベータに乗り込みながら横目で見上げると、閉まった瞬間に壁に押し付けられた。
「逆で行くから。今度は俺が落とす、絶対」
もう落ちてるよ、バカ。
でも言わない。私だって逆で行くから。
押さえつけている手をゆっくり押し戻すと、中井くんの眉根が寄る。そのまま指を絡めたら、今度は口元が緩んだ。
もっと甘い囁きや約束は、やっぱり欲しくなるけれど。
はっきり言葉にしてくれるまで、今度は待っててみてもいい?
だから今は、言葉がなくても伝わる距離で、指先から伝わり合う熱に期待しながら。
もう少しだけ。その熱い眼差しを信じて。
今はまだ、あいまいなままでいようか。
