17年ぶりの夜
エレベーターの前で少し迷って上に向かう表示を押した。

確かここのホテルは上階に宿泊者用にラウンジがあったはず、
たまには贅沢もいいんじゃないかと、
港の景色が望める部屋に宿泊している私は
少し、飲み足りなくて、ラウンジに向かう事にしたのだ。

やって来たエレベーターに乗り込んで
ラウンジの階を押してドアが閉まるのを待っていたところに、
閉じようとするドアを押さえて、スーツ姿の男性が乗り込んでくる。

「サトミ、もう帰るの?
ひでーな。俺に会わずに帰ろうとしてたんじゃねーの?」と懐かしい笑顔が言った。

コウヘイだ。

「ひ、久しぶり。コウヘイ」と上ずる声を抑えて、私は少し笑顔を作った。

あまり印象は変わらない。
爽やかな笑顔にくっきりとした二重の瞳は知っているコウヘイだ。

私はどう思われてるんだろう…。
急に怖くなって下を向いていると、

「サトミ、これってどこ行くの?」と上がって行くエレベーターに怪訝な顔をする。

「ら、ラウンジだよ。もう少し飲もうと思って…。」と小さな声を出すと、
「いいねえ。俺も一緒に行く。」とコウヘイは笑った声で言った。

「宿泊者専用のラウンジなんだけど…」と呟くと、
「そうなんだ。知らなかった。俺も今日はここに泊り。
いま、俺、横浜に住んでるんじゃなくて、神戸なんだよねえ。」と微笑んだ。

そうなんだ…。

「サトミはどこに住んでるの?」と言いながらラウンジのドアを開けて、私をエスコートする。
オトナになったコウヘイは仕立ての良いスーツが似合う男になっていた。

「横浜のままだよ。」と少し微笑みながら、

コウヘイったら、すっかり一緒に飲む気になってる。と心の中で呟いた。

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