一ヶ月の恋…最低男の言い訳…
episode second
その彼氏は同じ会社の人。

年上で一緒にいて、落ち着く人…。

おしゃれで、笑った顔がかわいい彼にすぐに恋をした。

まめに連絡もくれて、毎日会いに来てくれる。

私は幸せだった。

本当に愛していた。

この人が最後の人がいい…そう思うほど…。

だけどね…「歩花(あゆか)…俺、言ってない事ある…」

嫌な予感。

色々な予想が頭を駆け巡る…。

もしかして他に彼女いるとか?

やっぱり付き合えないとか?

なんだろう…。

そう思いながら「何?」

「俺、結婚してるんだ…」

「嘘でしょ?」

「ごめん…妻とは別れるから…」


頭が真っ白になった…。

何と言えばいいのか…わからない。

「今、二人目生まれたばかりだから時間をくれないか?」


この時、突き放す勇気があったらよかった…だけど私は彼の事が好きで…好きで仕方なかった。

だから「わかった…」

今はまだ別れたくない。

衝撃の事実が二つ。

付き合う前に知りたかった…。

こんなに好きになってしまってから言うなんて…ズルイ。


彼は、「妻との関係は冷めきっているから、信じて待っていて…」

好きだから…信じてしまったよ。


家庭があるにも関わらず、仕事の帰りは毎日会いに来てくれた。

会わない日はない程。

お揃いのTシャツも…一緒に行った場所も、私にとっては眩しかった。

悪い事だと思っていたけど、気持ちを止められなかった。


彼は育ちに事情があって、家族とは疎遠だった。

私も家庭に事情があって、高校生の頃は弟と二人で暮らしていた…。

両親は離婚し、母は新たな彼氏ができて私と弟を置いて家を出た…。


だから…同じような境遇に話が合った。

だから…惹かれ合ったのかも知れない…。


弟が社会人になったのをきっかけに都会にでた私。

その新たな場所で同じような境遇の彼。

離れる事が出来なかった。


傷の舐め合いだっていい。

彼がいてくれるだけで…それだけでよかった…。


よかったはずなのに…時間が経つと欲張りになっていく。

「本当に私を選んでくれるの?」

そんな不安ばかりを口にするようになった。

待つのは辛い…。

私は構えていられる程強くはない。


彼は「歩花を選ぶよ…だから毎日会いに来てる…」

「うん…」

重たい空気…。

一度暴れだした不安は加速する。

何度でも確認したくなる…家庭があるのわかっているのに…いけない事だとわかっているのに…

愛されている実感がほしい。

でも、我慢して信じる。

彼との道を選んだのは私だから…。

彼が帰った後、一人になった部屋には余韻が残る。

それを感じるのが…寂しくて…苦しい…。

ずっと側にいてほしい…ねぇ…彼女の所に帰らないで…

そんな事ばかり願ってしまう自分…。

最低だね。


彼の言葉に期待してしまう…「歩花が好きだよ」。

甘い言葉に私は溺れていく。

彼の言葉も…私にしてくれる行動も私の心を掴んで離してはくれない…。

「今、妻と話し合っているから…」

そう言われ続けてどのくらい時間が過ぎたのだろう…。


思い出もお揃いの物もどんどん増えいく…同時に好きという気持ちも大きくなっていく…。


ねぇ…信じていいよね?

急にさよなら…と言わないよね?


好きになればなるほど不安になるこの気持ち。


私は自分のペースを完全に見失った…。
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