極上な彼の一途な独占欲
女は違う。気分でころころ印象が変わり、オンとオフの差も激しい。その上髪型や服装を変えられた日には、伊吹には誰が誰だかさっぱり判別がつかなくなる。

だからどうだと決めつける気はないが、少なくとも伊吹にとって女とは、扱うのに気ばかり遣い、下手なことをしたら厄介な結果を生み、うまく転がしたところでむなしいだけという、要するに面倒な存在だった。

嫌いではない。決して嫌いではないのだが、自分の人生に不可欠かと問われたら、いらない気がする。車とどちらか選ぶ事態に瀕するようなことがあれば、一応悩みはした後で、『…車かなぁ』となるであろう、そのくらいの認識でいた。


『天羽と申します。よろしくお願いいたします』


ちょうど今から一年ほど前、オートショーの準備も具体的になってきたあたりで、代理店から紹介されたメンバーの中に彼女はいた。

『大きな仕事で緊張してます』と素直に笑い、『きれいな本社ですねえ』とずっときょろきょろしていて、仕事の話になっても楽しそうで、前向きで、こうと思ったことは曲げない。

珍しいことに、二度目に会ったときも見分けがついた。

髪型も、最初に会ったときは下ろしていたのが二度目は結い上げていた。服装もダークカラーから明るいトーンになっていた。これだけ変わるといつもなら、伊吹の目には別人と移るのに、美鈴は違った。


『企画を修正してまいりました』


そう言って会議室の机越しに、いかにも正直そうな、芝居がかったところのない仕草で資料を渡してきたとき、あ、この間の女性だ、とすぐ気がついた。

安定した仕事ぶりからすると、この世界で数年はやってきているようなのに、どうだ、という自信がダダ漏れになっているあたりはまるでぴかぴかの新人だ。

その差が新鮮だった。

最初はどこまで食い付いてくるのか試す意味合いもあり、無理難題をふっかけてみたりもした。そのうちに、どこまででも食い付いてくることがわかったので、遠慮なく伊吹の理想をぶつけるようになった。

なにかしら返ってくるから頼もしい。そして面白い。

いつしか美鈴との打ち合わせは、多忙な日々の合間の楽しみになっていた。


「で、行きたい場所は決まったのか」

「行きたい場所ならさっきから挙げてます。伊吹さんが文句つけてるんでしょ」


ようやく髪を乾かし終えたらしく、ドライヤーを戸棚にしまいながら美鈴がふくれる。
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