極上な彼の一途な独占欲
「俺が文句つけるような場所に行きたいのか」

「屁理屈!」


シャワーを浴びたての、さらさらした素肌を後ろから抱きしめた。伊吹はもうすっかり身支度を終えたというのに、美鈴はまだバスタオルを身体に巻いている。さらにこれから化粧だ。

外出の準備にかける手間が違うんだから、同時にシャワーを浴びればこうしてタイミングがずれるのはわかりきっているのに、美鈴は一緒に浴びたがる。

髪を伊吹に洗わせるのが好きで、湯を浴びながら抱き合ってキスするのが好きで、なんでそんなことがそんなに好きなんだと尋ねると、『そうしてるときの尊さんが好きだから』と臆面もなく答える。

子供みたいな素直さと、虜にならざるを得ない女の魔力を持った女。

不思議なことに、言葉で表すなら "面倒""手間がかかる"といったところで、これまでの女へのイメージとなんら変わらなくなってしまうのだが。

想いはまったく違う。

長い髪をかき分けて、温かく乾いたうなじに唇を落とした。


「"伊吹さん"?」

「…伊吹さんですね、こんなわからずや」


柔らかく噛みついてやると、びくっと肌が震える。髪にブラシをかけていた手の動きがゆっくりになり、やがて止まった。

尊と呼べと言ってある。

たいていはそう呼んでもらえるが、美鈴が機嫌を損ねると"伊吹"に逆戻りする。どうやら意識してそうしているわけではないらしい。だから伊吹は、どう呼ばれたかで美鈴の機嫌を測っていた。

にこにこしながら"伊吹さん"のときもあれば、つんけんしながら"尊さん"のときもあり、気づいてしまうとこれがまた面白かわいい。

本人も、伊吹がそれをバロメーターとして使っていることを知っている。けれどとっさに出てしまうもののためコントロールはできないらしく、こうしていいからかいの種を提供してくれる。


「…尊さんは、行きたいところ、ないんですか」

「美鈴の行きたいところなら、どこでも」

「嘘つき」

「嘘なんてついてない」


鏡の中で、むくれた顔と目が合った。

そのとき、部屋のほうから振動音が聞こえてきた。伊吹の携帯だ。

嫌な予感がしつつ、美鈴から腕をほどいて取りに行く。
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