極上な彼の一途な独占欲

「今日も無事、終わりそうだね」


運営をしている広告代理店の営業、中山(なかやま)さんがふーっと息をついた。

ひょろっとした長身に柔和な顔立ち。おしゃれな髭を生やしているのは、顔の作りが優しげなのを気にしているせいだと私はずっと思っている。


「ですね。今日閉めたら、一般デー用に展示車両、入れ替えですよね?」

「うん。ステージも増えるから、動き確認してね」

「はい」


ショーの初日と二日目は、プレスデーといって関係者や招待客のみが来場する。三日目である明日から、いよいよ一般のお客様がやって来るのだ。しかも同時に週末が始まる。

閉場時刻も迫ってきた夕方四時、人もまばらなブースを少し離れたところから眺める。会場内はすべての通路に赤いカーペットが敷き詰められており、これがパンプスの足にはなかなかこたえる。

みっともなくない程度に片足ずつ膝を曲げて血行を促進しながら、気づけば目はブースの中にいる伊吹さんを追っていた。

耳に挿したイヤホン、スーツの胸元に留めたマイク。誰が見ても彼がこの場の責任者であるとわかる、緊張感と余裕。すっとした立ち姿はつい見入ってしまう雰囲気を放っている。

あちこちに目を配りながら歩いていた彼が、ふとマイクに手をやって、口を動かしたのが見えた。

なにか指示が来たんだろう、中山さんがはっと姿勢を正し、同じように胸元のマイクを手で握るようにして「承知しました」と厳かに言った。


「…トラブルでも?」

「いや、伊吹さんのところの社長さんが、もうすぐ視察にいらっしゃるって。気の抜ける時間帯だから、みっともない姿を見せないよう、わざわざ教えてくれた」

「あら、じゃあ女の子たちにも気合を入れ直すよう言ってきます」


常に気を抜かないのが当たり前とはいえ、集中力にも限界がある。引き締めてこようとしたところ、中山さんが「いや、それよりも…」と顔を曇らせた。


「なんです?」

「ちょっと待ってね、確認するから。伊吹さん取れますか。コンパニオンどうします、下がらせます?」


なんだって?
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