極上な彼の一途な独占欲
聞き捨てならない響きに色めき立つ私を手で制し、中山さんは「はい…はい」と機械越しに会話をしている。


「わかりました、そのままにします」

「ねえっ、中山さん、どういうこと」


ひと段落したと見るや、私は噛みついた。なんだ今の、まるで女の子の存在が恥みたいな言い方して。


「落ち着いて、落ち着いて。あのね、伊吹さんは元々、女性コンパニオンの起用には反対だったんだよ」

「そんなの見てたらわかりますよ、女嫌いなんでしょ!」

「そうじゃなくて。今回のブースコンセプト、っていうか、伊吹さんのところのブランドの方向性がね、今後、ジェンダーレスをひとつのテーマにしてるんだよ」

「えっ?」

「キャッチコピーみたいに、表立って言葉にはなっていないんだけどね。それで伊吹さんは、女性だけでなく、男性のコンパニオンも同数置きたいって当初、言ってたんだ」


社長が来るという話が広まったんだろう、ブースにいる伊吹さんの周りに、広報部の方や代理店のお偉いさんが集まりはじめる。


「でも宣伝部長さん、つまり伊吹さんの上司ね、が、車のショーといったら女だろう!って言って、許さなかったわけ。天羽さん、海外のオートショー見た事ある?」

「ないです…」

「海外だと、男性コンパニオンて当たり前なんだよ。こんな、肌露出させた女の子がニコニコして商品に張りついてるなんて日本だけ。伊吹さんは海外にいた経験もあるから、なおさらそれが気になったんだと思う」


…そうか。

少し前まで、伊吹さんがいつも見せていた侮蔑は、女の子たち自身にでなく、女の子を飾り立てて商品化する、文化そのものに向けられていたのか。

それなら、それで飯を食っている私みたいな人間にも、好感がもてなくて当然だ。いや、嫌いじゃないとは言ってくれたんだけれども。それはそれ、これはこれで…。


「中山さん、天羽、ちょっと相談」

「ぎゃあっ!」


思考の中にいたはずの伊吹さんご本人が、いきなり目の前に登場し、私は飛び上がった。
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