極上な彼の一途な独占欲
つややかなワンレングスのボブを揺らして、暢子が笑う。


「努力でクリアできるハードルをくれたのなら、せいぜい鬼ってとこよ。ほんとの悪魔なら、学力テストでも受けさせてこれまでに全員切ってるわ」


認めるのが面白くなくて、ふくれっ面を返事代わりにした。大きな窓を背にした社長席で、暢子がくすくす笑っているのがわかる。


「頼りにしてるわよ、美鈴(みすず)」

「暢子、この案件を私に譲ったの、もしかして伊吹さんの性格を知ってたからじゃないの」

「ばれたかー」


じろっとにらむと、目をそらされる。


「だって私、ああいう高慢な男、言い返すより先に殴っちゃうもん」

「私だって殴りたいの我慢してるの!」

「ほら、我慢できるでしょ? だから美鈴のほうが適任なんだって」


ぎりぎりと歯噛みしたい思いに駆られる。確かに普段おおらかなぶん、真に頭にきたときの暢子は激しい。さすがに相手を殴ることはないが、首根っこを引きずって事務所から追い出すくらいはざらにやる。


「勘弁してよ、もう」

「まあまあ。バックアップはするからさ」


バッグからPCを取り出して開けたら、さっそく伊吹さんから「ポイント表」なるものが送られてきていて滅入った。

あの冷徹な顔つきが思い出され、髪をかきむしった。巻く時間もないのでゆるいウェーブパーマをかけている髪が、肩の下あたりで踊る。

あの男、名前まで尊大の尊とか、体を表しすぎだ!

キーボードを壊す勢いで、そっけなく列挙されているポイントを確認していく。的確なのがまたはらわたを煮えくり返らせる。


「見るとこ見てるのね、やっぱり。ここから鍛えていかなきゃいけないところが軒並み挙げられてる」


いつの間にか背後に来ていた暢子が腕を組み、感心したように言った。私も同じポーズで考え込み、腹をくくる。


「やるっきゃないわ、これは」

「頼んだよ」


ぽんと私の肩を叩いて、暢子が自席に戻った。
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