極上な彼の一途な独占欲
私も彼女も今年28歳。20代を一緒にがむしゃらに走り抜けてきた戦友だ。

やってやりますとも。

髪を後ろでひとつにまとめ、今日中に研修スケジュールを見直すと決めた。


私たちの仕事は、ショーやイベントに派遣する女性スタッフのコーディネート及びマネジメントだ。

新装開店の呼び込みをする女の子から、巨大な会場を使って行われるさまざまなショーに華を添えるモデルやコンパニオンたちまで、女性が必要とされる場にはどこでも行く。

企画内容から必要とされる人数、スキルを導き出して、オーディションを開催し、契約した女の子たちを、業務内容に合わせて育成する。


今取り組んでいるのは、11月に開催される日本最大のイベント、東京オートショーの仕事だ。欧州車メーカーの日本法人である伊吹さんの会社から、代理店経由で指名をもらい、必要なスタッフを磨き上げている最中。

オートショーは日本の基幹産業である自動車業界が、心血を注いで二年に一度開催する大イベントだ。似ているように見えて、ゲームやカスタムカーの祭典とはわけが違う。

当然ながらクライアントの本気度も桁違いで、要求も高い。

それは私たちだってわかっている。

が。


「…はい」

『夕方送ったポイントの件の補足』


日付が替わる直前、住まいのある駅に降り立ったところで、バッグの中の携帯が鳴った。

名乗りもせず用件を切り出したのは、当然ながら伊吹さんだ。


「なんでしょう」

『"商品知識"の項目について。俺は、その場で車を売ることができるレベルの商品知識を持っている人間しか現場に立たせたくない。テストする内容はこちらで決めさせてもらう』

「お決めいただくのは問題ありません。ですがカタログは読み込ませていますし、当日も詳細なQ&Aを持たせます。そこまでご心配いただくこと…」

『カタログを読んで物が売れるなら、この世に営業職なんていらないな』


不躾としか言えないほど一方的に、通話は切れた。

残暑と秋を行ったり来たりしている10月頭。ショーの会期まで1か月半あまり。

実のところ、そう余裕はなく、彼女たち自身のがんばりに賭けなければいけない部分もあり、安心はできない。
< 4 / 180 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop