極上な彼の一途な独占欲
「食べ物、選んでもいいですか?」

「どうぞ」


ワインリストを眺めながら、脚を組んだ伊吹さんが紳士的にうなずいてくれる。肘が触れるほどの距離にいる彼とふと目が合い、私は待ち合わせ場所からここまで、彼の顔を見る余裕をなくしていたことに気づいた。

仕事を離れた伊吹さんは、落ち着いた照明も手伝って、ちょっと柔らかく見える。


「なに?」

「いえ、ええと、どれもおいしそうだなと」

「ワイン、なにか好みある?」

「好みっていうほど詳しくないんです。なんでも飲むというか」

「俺もそんな感じだ」


えっ、そうなの。

ソムリエばりの知識を披露しそうなイメージもあるのに。意外。


「上からグラスで頼んでみて、気に入るのに出会ったらボトルにしましょうか」

「楽しそうだな、それ」


私の大雑把な提案を、くしゃっと顔をしかめて笑う。

あれ、なんだろ、わくわくしてきたよ、私。

オーダーを済ませると、いよいよ会話に本腰を入れるときが来た気がした。とはいえ私と伊吹さんの間に、仕事以外の共通の話題なんてない。

なにを話そうかなあと考えていたら、伊吹さんが上着の中に手を入れ、煙草を取り出したので驚いた。


「吸われるんですか」

「あれ、まずい?」


思わず詰め寄るような口調になった私に、彼がぎょっとしたように、煙草を挟んだ指を口から離す。


「いえっ、いえ、まずくないです」

「煙が苦手ならやめるけど」

「いえ、三好も吸いますし、全然気にしないです。どうぞ、どうぞ」


半信半疑の顔つきで私を見たまま、白い煙草をくわえて火をつける。赤い地に金の帯の、角が面取りしてあるような変わった箱の煙草。

葉巻とか吸っていそうなものだけれど、普通に煙草だ。

私、どうも伊吹さんに対して変なイメージがあるみたいだな…。
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