極上な彼の一途な独占欲
うわあ、これ、まずい。

私はぱっと顔を上げ、その拍子にひやっとした空気を頬に感じたことで、顔が熱くなっていたことに気がついた。

伊吹さんが、驚いた顔で見ている。


「あ、あの、ありがとうございました。大事なものを」

「…いや」

「車、お好きなんですね、やっぱり」


そう言ったとたん、なぜか彼の眉が、むっと寄った。しかめ面で、刷り出しをさっと封筒に戻してしまう。

えっ、なに。この話題、地雷かなにか?


「あの…?」

「その話、この間したぞ」

「え!」


思わず大きな声を出してしまってから、口を押さえた。

立ち上がった伊吹さんが、無表情に私を見下ろす。


「その様子じゃ、まったく覚えてないんだろ」

「ええと…はい、すみません」

「そこまで飲んでるようには見えなかったが」

「私、いつもこうなんです。飲むと、その間のことって忘れてしまいがちで」


しばらく私を眺めていたと思ったら、彼は行ってしまった。え、待って待って。

慌ててベンチから飛び上がり、廊下を進む背中を追いかける。


「あの、あのときなにか、大事なお話をいただいたりしましたか」

「別に」

「あっ、よかった…私、一応大事な用件は覚えているんです、飲んでも」


胸をなで下ろしたところに、ますます冷たい視線をもらってしまう。


「だろうな。俺とは忘れても当然なくらいの、他愛のない話をしただけだ。気にしなくていい」

「え、いえっ、そういう意味じゃなく…!」


社会人としてどうなんだという責めに備えたつもりが、逆効果だった。またすたすたと歩いていってしまう腕に追いすがる。
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