極上な彼の一途な独占欲
「オートショーは長丁場です。その間ほかの仕事を入れることはできず、体調を崩しても休めない。代わりはいます。けれど代わってもらったが最後、もう一度戻れる保証なんて誰もしてくれません。いつだって崖っぷちで戦ってます」


もはや、彼が聞いているのかどうかすら定かでない。けれど止まらない。一度言ってやりたかったの、この男には。


「人の未熟さを笑うのは簡単でしょう。ですがいい加減、彼女たちにしかできないことを見つけようとしたらいかがですか? 彼女たちがいることで喜ぶお客様を、まったく想像できないんですか?」


あー…暢子、ごめん。


「お客様のお出迎えをカタログスタンドにさせたいのならどうぞ。私たちがご提供しているのはスタッフです。人です。あなたがたのお手伝いをしたくて来てくれた子たちです。最低限の敬意も払えないなら、最初から雇わないで!」


腹立ちまぎれに、つい彼が座っている机を叩いた。その手にバインダーを持っていたせいで、音は予想以上に派手に鳴り、そういえば私の声も、会議室の外に漏れていたのではと今ごろ気になる。

気まずくしんとした室内に、ふっと冷笑する声が響いた。


「かわいいだけじゃないと証明してほしいのは、こっちなんだがな」


言い返す前に、彼は出ていってしまった。


* * *


「ちょっとー、なにやってんのよ!」

「ごめんってば…」


暢子には帰りがけに報告してあったので、事務所に戻ったらすぐ怒られた。

刻一刻と反省が募っていた私は、デスクに伏せて力なく謝罪する。背中合わせのデスクにいるアシスタントの花園日代(はなぞのひよ)ちゃんが慰めてくれた。


「根岸(ねぎし)さんからお聞きしました、あれは美鈴さんもキレると」


根岸というのはさっきのデザイナーさんだ。私や暢子はネギちゃんと呼んでいる。

私は顔を起こし、垂れてきた髪をよけるついでに頭を抱えた。


「さすがにこのタイミングで女の子全員クビってことはないはずだけど、うちは外されるかも…」

「そうなったらそうなったときのことよ。悩んだって仕方ない。それよりどうやったら満足してもらえるか考えましょ」

「葵ちゃんにも気をつかわせちゃった」

「ダメなマネージャーね」
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