極上な彼の一途な独占欲
伊吹さんが、会議室に並ぶ机に腰を預けた。


「うちのブランドコンセプトを3つすべて答えて」

「ブランドコンセプト…」


葵ちゃんが目を泳がせ、言葉を詰まらせる。伊吹さんは待ってあげることもせず、次の質問を浴びせた。


「ショー会場から一番近いショールームは?」

「………」

「すべての車種が見られる都内の大型ショールームの場所は」


視線を落として「すみません」と小さな声で謝る葵ちゃんに、伊吹さんが冷たい視線を投げる。それから私を見た。


「想定される簡単な質問にも答えられない。これでなにが務まるんだ」

「それは…」


机に置いてあったA4の出力を、私に渡す。それは先週の日付のプレスリリースで、伊吹さんの会社が、来年六気筒の車種を復活させるというニュースが書かれていた。

さっきの質問は、これを踏まえて答えるべきだったということか。


「これならカタログを置いておくのとなんら変わらない。カメラを携えた幼稚な男性客を喜ばせるために、こんな金のかかるカタログスタンドを置く気はない」


端正な顔が、にこりともせず言い放つ。

私は怒りのあまり、目の前が真っ赤になるのを感じた。

カタログスタンド、だと。私たちの大切なコンパニオンを。

ダメダメ、こらえて。暢子の言う通り、ここはいいクライアントだ。ここまで時間も費用もかけてきたのに、手放すわけにはいかない。

ああ暢子、でも、もう我慢できないよ。


「…お言葉ですが、彼女たちは飾り物ではありません」

「たった今、飾り物だと自分で示したんだろう」

「来場したお客様に歓迎と感謝の気持ちを伝えて、御社のブースを心ゆくまで楽しんでいただく場を作る、そういう仕事のプロなんです」

「そうか」

「かわいいだけでちやほやしてもらえる世界だと誤解してませんか。とんでもない、クライアントに合わせてあらゆる知識を吸収し、臨機応変に対応しなければならない。たった一日のイベントでも、彼女たちは勉強に何日も費やすんです」


彼がいたって冷静なので、私はまずます頭に血が上るのを感じた。
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