黒猫の香音(後編)
「まだだよ、"馨"。」
高いヒールの音を響かせながら香音を本来の名前で呼ぶ其の人は店の灯りで露になる。
「…母…さん…」
瞳孔を開く娘を見て母親である美月は安堵の表情を浮かべた。
其のバックにも無数の組員達が香音の為に駆け付けてくれた。
「でも…どうして…?」
状況を上手く掴めないでいる香音に対して美月は其れ迄の経緯を説明した。
「本当に偶々だったんだ。
丁度久々に仕事の件で金刺さんの所に行ったら瑠華ちゃんが血相変えて帰ってきたのが見えてね、そしたら組員さん達が何故か馨の話をしていて…しかも馨じゃなくて旦那の方が瀕死だってね。
其れが耳に入っちゃったもんだから居ても立ってもいられらず瑠華ちゃんに訊いたのさ。
だから助太刀しに来たんだけど、本当危ない所だったよ。」
そう言って美月は胸元に拳銃を仕舞いこむ。