不器用な彼氏
午後10時。
明日は、それぞれ仕事で、あまり遅くならないうちにと、会はお開きとなった。

帰りに私を送るために、本当に一滴も飲まなかった海成が、『車、用意してくる』と言って席を立つ。身支度をして、お姉さんに今日のお礼を告げると、名残惜しそうに、玄関まで送ってくれた。

『そういえば、菜緒ちゃんって、海のこと、名前で呼んでるのね?』
『はい?』
『あの子、身内以外、誰にもその呼び方で呼ばせていなかったみたいだから、ちょっとびっくりしちゃったわ』
『そう…なんですか?』
『ん~、確か前に、そう呼んでた女性が一人いたけど、もうずっと前の、あの子がまだ学生の頃だし、年も上の人だったしね…それはノーカンとして、それ以降は、誰にも呼ばせていないはずよ…、この意味わかるでしょう?』

意味ありげに微笑まれ、お姉さんの言う【意味】を考えたら、自分的に嬉しいことしか浮かばない。

思わず自然に頬が緩んでしまうと

『愛されちゃってるのねぇ』

お姉さんのからかうような言葉に、どうしようもなく胸が熱くなってしまう。

もちろん、そんなことを話していることなど、何も知らない海成が、外から不機嫌な声で私を呼ぶ。

『全く、せっかちな男ね』
『今日は、ご馳走様でした』
『こっちこそ、デートの邪魔しちゃったみたいで、ごめんね。でも、会えてよかったわ』
『私も。いろいろお話しできて、すごく楽しかったです』
『また遊びにいらっしゃい』
『はい是非!』

しびれを切らした海成が、クラクションを2度鳴らし、もう一度、お姉さんと顔を見合わせて笑う。

『あんなだけど、これからもよろしく頼むわ』
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